公営企業の経営アドバイザー

「地方公共団体の経営・財務マネジメント強化事業(公営企業関係)」

総務省の「地方公営企業等経営アドバイザー(病院事業)」及び「公営企業経営支援人材ネット事業(病院事業)」が統合されて、令和3年度から「地方公共団体の経営・財務マネジメント強化事業(公営企業関係)」と名称が変わり、総務省と地方公共団体の合同事業として新たにスタートしました。主旨はこれまで同様「地域医療・福祉の充実」のために諸々の支援サービスを実施するのですが、これからは地方公共団体の長が主体となって、医療・介護経営の舵取りをしていくようになりました。当方が担当する分野は「病院事業」と「介護事業」です。



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自治体病院の経営改革......これまでの取組みについて

【旧 総務省地方公営企業等経営アドバイザー(病院事業)】

伊勢崎市民病院でのアドバイザー講評風景
アドバイザー講評風景

平成20年7月に「経営アドバイザー」に任命され、平成20年度から令和2年度迄の13年度で15の自治体に派遣されました。アドバイザー事業に応募した病院(地方の病院が多い)にアドバイスを実施する事業で、事前の資料調査の後、アドバイザー2名が自治体・病院に赴いてヒアリングを行い、最後に講評で締めくくります。

<アドバイザー事業の派遣で赴いた病院>
平成20年
福島県いわき市「いわき市立磐城病院」と「いわき市立常磐病院」
平成21年
愛媛県八幡浜市「八幡浜市立病院」
栃木県南那須地区広域病勢事務組合立「南那須病院」
平成22年
北海道八雲町「八雲町立病院」
群馬県伊勢崎市「伊勢崎市民病院」
平成23年
青森県北部上北広域事務組合立「公立野辺地病院」
平成25年
山梨県大月市立「大月市民病院」
平成27年
新潟県阿賀野市「阿賀野市立病院」
平成28年
岡山県岡山市「岡山市立福渡病院」
京都府亀岡市「亀岡市民病院」
平成29年
山形県米沢市立「米沢市立病院」
鹿児島県出水市「出水市立病院」
平成30年
長崎県対馬市「対馬市立病院」
令和元年
秋田県仙北市立「角館病院」「田沢湖病院」
令和2年
北海道空知郡奈井江町「奈井江町立国保病院」

【主な取組み】

1.経営戦略の策定・改定

 自治体病院に対しては、これまで「公立病院改革プラン(平成20年度)」と「新公立病院改革プラン(平成27~28年度)」の2回、「中期経営計画(5年間)」の策定が求められてきました。そこで、これまで中期計画等立ててこなかった病院に、「経営計画策定」の支援やアドバイスを行いました。「計画策定の代行」ではなく、行政や病院職員と一緒に考えながら、共に「経営計画」を立案していく視点での支援です。何故なら、外部者が代行立案した「経営計画」では職員は置き去りのため実行されず、その後「棚ざらし」になってしまうことが多々あるからです。結局は自分達が納得して自ら立てた「経営計画」でなければ、その後の実行には繋がりません。今後も「中期経営計画」は立て続けなければなりませんが、その際は「全員参加で計画策定」をし、その後の実行に繋がる「具体性のある計画」にしていくことを念頭に、進めていく必要があります。

・公立病院改革プラン策定支援(平成19~20年度)
※和歌山県T病院......
行政が行政改革の一環として計画策定に着手し、病院と共に計画策定を進める支援をした。その後職員減で、経営形態の変更となった。
・新公立病院改革プラン策定支援(平成28年度)
※新潟県A病院.........
行政が改革を進めて指定管理者制度に移行し、その後も指定管理者と相談しながら病院改革と地域医療計画を策定していく助言を行った。
※岡山県F病院.........
組合立の小病院の職員達が自ら計画策定し、地域包括ケア体制(ケア病棟開設と在宅医療介護体制)充実を選択するのを支援した。
2.地方公営企業法の適用、経営形態の変更等

 自治体病院は地方公営企業法の適用を受けていますが、昨今の制度変更の中で、公営企業法の適用が変更される事例も出てきており、このような場合の支援を行っています。
具体的には、1地方公営企業法「財務」の病院会計が、より企業会計に近い形式に変更された際には、その指導や助言を行ってきました。また、2病院の経営形態の変更に伴う地方公営企業法の適用変更の支援も行います。具体的には、「全部適用」「一部事務組合」に変更になった場合、合併再編に伴う変更への対応です。
 経営形態の変更には「地方公営企業内での変更」以外に、地方独立行政法人や指定管理者、PFI、民間委託といった非公務員型への変更がありますが、変更実務やその後のフォローも行います。

・指定管理者制度への移行......中小病院の事例が多い
※愛知県T病院.........
既存の法人への委託でなく、病院が新たに医療法人を設立して病院事業の指定管理者になる形でスタートし、10年後に解散した(解散まで支援)。
※千葉県K病院.........
上記同様既存の法人でなく、新たに医療法人を設立して指定管理者になる形でのスタートで、法人設立や事業策定等を支援した。
・地方独立行政法人への移行......大病院や複数病院の統合の事例が多い
※山形県Y病院.........
公立病院と公的病院(民間病院)の複数が経営統合する際に適用され、非公務員化・給与制度改正に伴う支援や職員の不安解消等に対応した。
3.自治体の委員に就任し、(一定期間)助言や支援を行う

 地方公共団体主催の会合(改革委員会、経営検討委員会等)や病院組織の委員を委嘱されて、一定期間会合に参加して助言したり、現場に赴いて助言や実施の支援を行う方法。総務省アドバイザー就任後から度々委員就任の依頼があり、各地に赴きました。

※奈良県地域医療等対策協議会(平成20年度)

「公立病院改革部会」と「へき地医療部会」の委員に就任して、県の担当部署と共に奈良県の医療を再構築する事業に参加しました。「公立病院改革部会」では、県下の公立病院(10)及び公的病院(4)の医療供給体制を見直すため、全施設を訪ねて調査(医療者へのヒアリング)を行い、医療現場の抱える問題をクローズアップさせて医療再編に役立てるのです。奈良県ではこの事業を基に医療再編を進めていきました。

医療現場でのヒアリング風景
医療現場でのヒアリング風景

また、「へき地医療部会」では県南部に広がる山間部の「過疎地・へき地」に点在する公立診療所の医療崩壊を防ぐため(、へき地に赴任する医師(自治医大生、地元枠等)を育てるプログラム養成と医師を迎え入れる側の行政(町村)の対応が課題です。この部会での命題を公表するため、平成20年8月に、十津川村で「へき地医療について星降る夕べに語る」というイベントが開催されました。

十津川村の谷瀬の吊り橋にて
十津川村の谷瀬の吊り橋にて
※奈良県立病院独立行政法人評価委員会経営改善検討チーム委員(平成28~29年)

平成20年に奈良県での地域医療調査の報告後に奈良県の病院は再編され、県立3病院は「独立行政法人」に、県南の南和3病院は経営統合して1つの事業体としてスタートしました。
独立行政法人県立病院は平成20年当時は過少投資だった「設備投資」を行って急性期医療を強化しましたが、近隣病院(奈良県内及び近畿圏)との競争が激化し、独立行政法人の経営は悪化しました。そのため、経営改善検討チームが招集され、経営の識者・経験者が集って意見具申をしました。

※徳島県つるぎ町立半田病院 経営委員(平成19年~23年)
半田病院経営委員会の風景
半田病院経営委員会の風景
半田病院経営委員会の風景
半田病院経営委員会の風景

 徳島県つるぎ町立半田病院の元事業管理者より委嘱を受け、平成19年から23年まで経営委員を務めました。この病院は「地方公営企業法・全部適用」で経営は病院主体で進められており、管理者の主導で経営委員会が年2回開催され、病院幹部職員、つるぎ町や町議会TOPと外部識者である経営委員が参加しました。全部適用になると町から独立した経営が可能で、「人事権」や「予算権」も付与されますが、事業管理者のリーダーシップは必須で、経営責任も問われるため、実施している病院も、成功事例も少ないのが現実です。この病院では全部適用後は連続して黒字で、経営委員会は「職員や町関係者に外部識者の意見を聞かせ、経営参加させる場」とされていたため、委員としては「経営指標の提出を求めたり、外部の話をして刺激する」ことにしていました。

※福井県高浜町...地域医療ワーキンググループ委員(平成20年~21年)
ワーキンググループ
ワーキンググループ
寺澤教授の地域医療の指導風景
寺澤教授の地域医療の指導風景

 高浜町には自治体病院はなく、社会保険病院と町立の国保診療所があるだけですが、病院は医師不足で存続が危ぶまれ、診療所に地域医療を志す若手医師が集まって活気がある状況でした。町の今後の地域医療の存続を心配した新町長は「地域医療と福祉の充実」を公約に掲げ、有識者に助力を要請して改革に乗り出しました。冨田も高浜の「ワーキンググループ委員」を委嘱され、毎月の会議に参加して医療者や行政と話し合い、また医療現場の調査やヒアリングを実施しました。ワーキンググループ会議には、総合医療の指導で有名な寺澤教授を迎え、その場で福井大学と町との「地域医療の寄付講座」のアイデアが生まれ、実現しました。これをきっかけとして地域医療は少しずつ再生していきました。

※滋賀県東近江市......市立病院体制整備検討委員会 委員(平成23年~25年)

 滋賀県東近江市は平成の大合併で3市4町が合併して生まれましたが、合併以前から各市町が抱える病院(中小病院)は医師不足で、地域医療ニーズ(救急対応)の提供ができていませんでした。そこで新市長は滋賀県、滋賀大学、国立病院と東近江市が提携して「医師供給システム」「新病院建設」「急性期病院運営」を実現する急性期病院をオープンさせ、医療再編を実現させます。外部コンサルに頼らず当事者達の協力と妥協を引出して現状打開を図る、正に「近江商人」の「三方良し」の具現化でした。委員会の使命は、再編後の「中小病院の後始末」で、「公」の最小化と「民」への委託の議論を時間をかけて行いましたが、市は一貫して委員より冷徹に「選択と集中」を進めていきました。「三方良し研究会」という医療介護連携ネットワークに参加できたのは、この東近江での収穫でした。

※埼玉県さいたま市......市立病院「経営評価委員」「施設整備検討委員」(平成24年~29年)

 さいたま市立病院は自治体病院表彰を受けた「経営の良い自治体病院」ですが、市で唯一の市立病院の設備は「自治体病院」としては質素で設備は古びていて、「施設設備検討委員会」では新病院建替の議論を行いました。病院建替の検討委員会は他市でも幾つか経験しましたが、さいたま市の建設プランは一番質素で、委員会は(過少設備投資に悩んできた)病院が今後数10年間使用する新病院は、「医療技術の進歩」に合せた建物が相応しいとの意見を答申しました。数年後に完成した病院の内覧会に訪れた際に、他市の豪華な病院に比べてまだ質素だと感じました。同時に、自治体病院の赤字の大元はやはり「過剰な設備投資」にあると改めて実感しました。
「経営評価委員会」は中期事業計画の項目を毎年度実施したかどうかをチェックする「予実績管理と評価」の場で、自治体病院には珍しく「予算だけでなく実績評価」を外部者を入れて検討していました。
病院側の事前の自己評価は謙遜して概ね低めの評価でしたが、委員会が再度検討を行って再評価し、点数を上げていることが多い委員会でした。

※徳島県......県立病院を良くする会 委員(平成24年~令和元年)

 徳島県県立3病院の事業計画と経営内容を見守り、建設的な意見を述べるという趣旨の委員会で、委員を委嘱されてから徳島に8年間通いました。県立病院は過去に経営改善を行ってきて、経営は(繰入後)黒字で、問題視はしておらず、議題の中心は事業の説明、とりわけ地域住民への対応でした。委員の多くは地元住民や医療者のため、県立病院に対する意見や要求は多々あり、県も対応に努めていましたが、私には「東京や他地域での話をして欲しい」との要請で、いつも発言は最後でした。当時「再生基金」で3病院が建設中でしたが、次々に新病院が完成し、現場視察で見に行ってその立派さに驚きました。県立中央病院は高度急性期医療から各種政策医療を担っている大病院ですが、市内には病院が沢山あって生存競争は激しいだろうと想像していました。しかし、病院建物は隣の大学病院と廊下で繋がっていて、緊急時には両病院の医師が行き来できるという差別化をしていました。また県南の県立海部病院を視察した際には、南海トラフに備えて海の近くに小高い山を造成し、その上に貯蔵庫付の立派な病院を建設中でしたが、総工費は100億円超と聞いて驚きました。因みに、県南地域の人口は2万人程度だそうです。

徳島県 立中央病院
徳島県 立中央病院
県立海部病院(建設中)
県立海部病院(建設中)
※千葉県銚子市......銚子市行政アドバイザー、銚子市参与、市立病院の方向性を検討する委員会委員(平成25~26年度)

 銚子市では平成20年に市立病院が休止となり、休止を決めた市長がリコールに追い込まれたのは有名な話です。その後次の市長によって病院は再開されましたが、多額の繰入金を呑込む体質が議会で問題になっていました。平成25年春に首長が変わって新体制になり、その秋に銚子市に招かれて「病院再生」と「指定管理の解除」に関わる事になりました。その際、元自治体病院長と元自治体病院事務長の2人を誘って銚子に赴き、3人は「銚子市アドバイザー(医療・保健・福祉、26年度に参与に改正)」に任命されました。任期中は銚子市や病院(指定管理者)の調査、議会対策や住民説明、と目まぐるしく動きまわり、26年度に入って検討委員会が開催されると「検討委員」に委嘱され、翌年病院が新たな体制で再スタートを切るまでの実務を担うことになりました。この時の出来事は拙著「再生に挑む」に書かれていますが、行政や議会に入って、自治体病院と政治との関わりが非常に強いことを改めて実感しました。

銚子市役所にて(右端が筆者)
銚子市役所に赴いた3人(右端が筆者)
著書『再生に挑む』
著書『再生に挑む』

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※その他

一定期間の委員や役職以外に、短期間の委員会に参加して意見具申する機会もあります。
・「病院あり方検討委員会」「経営評価委員会」......病院の再編、経営形態変更、病院経営悪化、
・「病院建設検討委員会」.........病院の建設検討

4.自治体病院での経営診断・経営改善指導、等の経営支援

自治体の役職や委員会委員の就任はなく、行政又は病院からの依頼で、経営支援を実施します。
① 経営分析(診断)及びコンサルティング
② 職員ヒアリング及び職員実態調査とコンサルティング
③ 人事評価、目標管理制度の構築及び職員教育
④ 経営管理項目(会計、原価計算、人事政策、クレーム対応等)の指導
⑤ 経営アドバイザー
⑥ 広域医療体制確立(地域連携含)のアドバイス
① 、②は比較的短期間で調査・分析・報告を行い、それだけで終了する場合もあれば、③④⑤に展開する場合もあります。以下は1年以上に亘り、まとまった支援を行った事例です。

※徳島県H病院

③の人事評価制度導入の支援をしながら、④の経営管理(部門別原価計算)の確立に範囲を広げて支援をしていきました。

※香川県M病院

⑤のアドバイザーの委任を受けて、ケースバイケースで幅広くニーズに応えて経営支援していきました。②〜④に亘る支援項目で、主たる目的は「病院事務職への助言や指導」であり、次第に「地域ニーズの調査」が追加されていきました。

※大分県K病院

⑤のアドバイザーの委任を受け、院長(管理者)への助言と事務職員への指導④を続けました。

※埼玉県T市

市長の委嘱を受けて複数の病院の経営指導と、地域医療連携のアドバイス⑥を実施しました。

※北海道N町

①、②から開始し、④契約見直し等、⑥地域ヒアリングと連携アドバイスを実施しました。

講演等

平成21年3月
愛媛県保健福祉部...松山市、新居浜市、宇和島市(3か所)で講演
「愛媛県の救急医療を守る147万人の県民運動キックオフセミナー」
平成23年6月
ビジネス戦略セミナー(SSK)にて講演「病院の経営管理体制の確立を目指して」
平成23年11月
自治体病院の経営改革セミナー(みずほ総研共催)にて講演
「自治体病院の現状と問題点」
平成24年8月
自治体病院の経営改善セミナー(札幌市)にて講演
「自治体病院における現状と問題点」
平成25年2月
宮城県自治体病院開設者協議会研修会セミナー(仙市)にて講演「自治体病院の現状と問題点」
平成28年7月
厚労省関係者の研修体(一水会)にて講演「自治体病院改革の現場から -改革の難しさと地域力・人間力-」